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松山地方裁判所 昭和38年(レ)3号 判決 1965年2月01日

控訴人 和田盛一

被控訴人 浅木トヨ子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

(当事者の申立)

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人に対して西条市大町字竹の鼻五八〇番地の一宅地九五坪五合五勺に生立する庭木及び庭石一切を引渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同趣旨の判決を求めた。

(控訴人の請求原因)

一、西条市大町字竹の鼻五八〇番地の一宅地九五坪五合五勺(以下本件宅地という)及びこれに定着する庭木、庭石一切(以下本件庭木庭石という)は、元塩崎信夫の所有であつたが、遠藤節子が抵当権実行による競売により昭和三四年一〇月二四日一括してその所有権を取得した。

二、控訴人は、昭和三六年一月二七日、右遠藤節子から右庭木庭石のみを譲受け、その所有権を取得した。

三、被控訴人は、本件庭木庭石を占有している。

四、よつて、控訴人は被控訴人に対し本件庭木庭石の引渡を求める。

(被控訴人の答弁)

請求原因第一項中本件庭木庭石(但し、被控訴人において植付け配石した庭木庭石を除く、以下被控訴人主張の本件庭木庭石について同じ。)が本件宅地と共に元塩崎信夫の所有であつたことは認めるが、その余は否認する。

同第二項は否認する。

同第三項は認める。

(被控訴人の主張)

被控訴人は次に(1) (2) (3) で述べるように所有権又は法定地上権に基いて本件庭木庭石を占有しているものである。従つて、控訴人が本件庭木庭石の所有権を取得したとしても、これについての公示方法を欠いているから被控訴人に対抗できない。

(1)  (所有権の一)本件庭木庭石は本件宅地と共に元塩崎信夫の所有であつたが、同人に対する飲食代金債権の債権者大浜篤忠が自己の債権の弁済に充てるため執行吏に依頼して本件庭木庭石のみを有体動産として差押え、競売に付し、平塚光明がこれを競落して昭和三二年二月一二日その所有に帰したものである。被控訴人は昭和三四年六月一三日右平塚光明から本件庭木庭石を買受けてその所有権を取得した。

(2)  (所有権の二)右塩崎信夫は、本件宅地上に家屋番号大町第一、一六四号の五木造瓦葺平家建居宅一線建坪三五坪五合附属建物物置一棟建坪一坪五合(以下本件建物という。)を建築し、これを所有するに至つたのであるが、本件建物に住宅としての景観を添えるため随時本件宅地上に本件庭木庭石を植付け配石したものである。従つて本件庭木庭石は本件建物の常用に供するため附属せしめたもので、本件建物の従物である。被控訴人は、本件建物を抵当権実行による競売により競落し、昭和三四年六月一三日その所有権を取得した。従つて、その従物である本件庭木庭石の所有権も同時に取得した。

(3)  (法定地上権)被控訴人は前記の通り抵当権実行による競売により本件建物の所有権を取得したから、本件宅地上に法定地上権を取得した。何故なら右塩崎信夫が西原均に対し本件宅地につき債権額金一五万円、順位一番の抵当権を設定した昭和二九年三月八日頃、本件建物は本件宅地上に既に右塩崎によつて建築され同人の所有に属していた。当時まだ建築が完成していなかつたとしても、同人は、昭和二八年一二月一九日その土地の地目を宅地に変換し、昭和二九年一月一三日本件建物の建築工事に着手している。西原均は右建築工事を承知のうえで宅地を評価し、債権額も僅か金一五万円の抵当権の設定を受けたものである。後日本件宅地が競売された際、競売代金は金二四万円であつて、一、二番の抵当権者はすべて優先弁済を受け、三番抵当権者にまで配当されている。かかる場合法定地上権を発生させても抵当権者に不測の損害を蒙らしめるととはない。そして、本件建物は、本件宅地について順位三番、本件建物について順位二番の抵当権者である岡田伝太郎の申立による抵当権実行により、被控訴人が前記のとおり所有権を取得したから本件宅地について法定地上権を取得した。しかして、本件庭木庭石(被控訴人が植付け配石したものを含む)は、本件建物の利用に不可欠な本件宅地と一体をなすものであるから、法定地上権はこれに及ぶものである。被控訴人は、本件建物について昭和三四年八月一一日所有権移転登記を、本件法定地上権について昭和三六年九月二〇日仮登記仮処分による仮登記をそれぞれ経由した。従つて、被控訴人は、右地上権をもつて控訴人に対抗できる。

(被控訴人の主張に対する控訴人の答弁及び主張)

被控訴人の主張事実中、塩崎信夫がその所有の本件宅地及び建物に抵当権を設定し、被控訴人がその主張の経過で本件建物の所有権を取得して登記を了したこと、及び本件宅地の競落代金が金二四万円であつたことは認めるが、その余は否認する。

本件宅地について順位一番の抵当権が設定された時、既に本件庭木庭石は宅地に植付け配石されてこれと一体をなしていたから当然宅地と共に抵当権の目的物件である。しかるに、被控訴人が主張するように後日本件庭木庭右のみを有体動産として執行吏が競売したことは違法無効である。また仮に、右競売が有効としても、本件庭木庭石は本件宅地の一部であるのに、平塚光明及び被控訴人はそれぞれその所有権を取得するに際し、明認方法を施していないから、本件宅地の所有者遠藤節子及び同人から本件庭木庭石のみの所有権を取得した控訴人に対抗できない。

被控訴人が仮に法定地上権を取得したとしても、これの及ぶ宅地の範囲は争う。

控訴人が本件庭木庭石のみを譲受けた際、譲渡人である遠藤節子は昭和三六年一月二七日被控訴人に対してその譲渡通知をしたから、これについての公示方法を施している。

(証拠関係)<省略>

理由

一、本件宅地及び本件庭木庭石(但し、被控訴人において植付け配石した庭木庭石を除く)が元塩崎信夫の所有であつたこと、被控訴人が本件庭木庭石を占有していることは当事者間に争いがない。そこで、控訴人が本件庭木庭石の所有権を取得したかどうかについて考えてみるに、成立に争いのない乙第二号証及び第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第二号証、原審(第一、二回)及び当審証人塩崎タマヱ、原審証人遠藤節子、同塩崎信夫の各証言、原審及び当審における控訴人本人及び被控訴人本人の各供述、原審及び当審における検証の結果を綜合すると、塩崎信夫は、本件宅地及び建物を所有していたが、本件宅地につき、債権者西原均との間で昭和二九年三月八日金一五万円の債権について順位一番の抵当権を、債権者株式会社愛媛相互銀行との間で昭和三一年一〇月二三日極度額金五〇万円の債権について順位二番及び本件建物に順位一番の根抵当権を、債権者岡田伝太郎との間で昭和三二年四月二七日極度額金三〇万円の債権について順位三番及び本件建物に順位二番の根抵当権をそれぞれ設定し、それらの登記をしたが、右債権者岡田伝太郎の申立による抵当権実行により、昭和三四年一〇月二四日頃遠藤節子が本件宅地を競落してその所有権を取得し、同年一一月二六日その登記をしたこと、本件庭木は本件建物のうち住宅の東側、南側、西側の各庭の別紙図面に示す位置に植付けられて本件宅地に定着し、本件庭石は住宅の西側の庭の中央附近に池を堀りその周囲及びその附近の庭に配石され(その位置は別紙図面に示すとおり)、その石の一部が地中に埋められ容易に動かすことのできない状態で本件宅地と一体をなし、本件庭木庭石によつて庭園を構成していること、本件庭木のうち少くとも別紙図面記載の(イ)から(ヲ)の各樹木を除いた庭木及び本件庭石のうち同図面記載の手水鉢の台石、沓脱石各一個の庭石を除いた庭石(以下単に本件庭木庭石というのは右庭木庭石を除いたものをいい、これを含むときは本件庭木庭石全部という)が、本件宅地について順位一番の前記抵当権設定当時既に塩崎信夫によつて植付け配石されていたこと、控訴人が昭和三六年一月二七日頃遠藤節子から本件庭木庭石全部を宅地と未分離の侭譲受けたことの各事実が認められ、右認定に反する原審証人塩崎信夫、同菅太一の供述部分は信用できない。

なお、控訴人本人の供述によると、同人は、雪見燈籠、明石燈籠各一個を譲受けていないことが明らかである。

二、(被控訴人主張の「所有権の一」についての判断)

成立に争いのない乙第一号証の二、原審(第一回)証人平塚光明の証言により真正に成立したと認める同号証の一、同証人(原審第一、二回及び当審)、前記塩崎タマヱ、塩崎信夫各証人の各証言、前記被控訴人本人の供述を綜合すると、松山地方裁判所執行吏荒川房次は、債権者大浜篤忠の債務者塩崎信夫に対する強制執行として塩崎信夫所有の本件庭木庭石(但し、乙第二号証の二の差押調書では庭石が差押及び競売の対象となつていたかどうか明確でないが、右各証人の証言によりこれを含んでいたものと認める)を有体動産として差押えて競売に付し、昭和三二年二月一二日頃平塚光明がこれを競落したこと及び被控訴人が昭和三四年六月一三日右平塚からこれを買受けたことの各事実が認められる。しかし、前記一で認定した事実に徴すると、本件庭木庭石は西原均との間で抵当権を設定した当時既に本件宅地上に存在していたのであるから、右抵当権の目的物件に含まれ、本件宅地の一部として抵当権の効力が及んでいたことが明らかである。

ところで、不動産に対する強制執行は、執行裁判所に専属し、執行吏の職分管轄に属しないこと民事訴訟法第六四一条第五六三条の規定に照らし明らかであり、この職分管轄の規定は強行的性質を有しているから、これに違反した執行々為は無効と解すべきである。しかるに、右執行吏は、不動産(本件宅地)の一部である右庭木庭石を有体動産として差押え、競売に付したのであるから、これは右職分管轄の規定に違反しておること明らかであり、右強制執行は無効というべきである。従つて、平塚光明はその所有権を取得し得ない。被控訴人は無権利者である右平塚から買受けたこととなり、所有権を取得するに由ないものである。又本件庭木庭石が本件宅地から分離されて動産となつている訳ではないので、即時取得の規定の適用のないことは勿論である。

三、(被控訴人主張の「所有権の二」についての判断)

本件庭木庭石が本件宅地に定着して一体をなし庭園を構成していることは前記一認定のとおりであるが、宅地と建物を別個の不動産として取扱う法制のもとで、宅地及び建物の所有者が建物に美的景観を添えるため庭木庭石を植付け配石したからといつて、これをもつて直ちに庭木庭石が建物の常用に供する従物であると見ることはできない。本件における被控訴人の全立証及び本件の全証拠をもつてしても、本件庭木庭石が本件建物の従物にあたることを認めるに足りない。

以上被控訴人の本件庭木庭石の所有権を取得したとの「所有権の一、二」の主張はいずれもその理由がない。

四、(被控訴人主張の「法定地上権」についての判断)

被控訴人は、塩崎信夫が本件宅地について前記順位一番の抵当権を設定した当時既に本件建物はその地上に存在した旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。しかし、前記乙第五号証、前記菅証人の証言により真正に成立したと認める乙第三号証、同証人、原審(第二回)及び当審証人塩崎タマヱ、原審及び当審証人越智茂、当審証人塩崎友次郎、同一色節一の各証言によると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件宅地の所有者であつた塩崎信夫は、昭和二八年一二月頃西条市内にあつた建物を買受け、これを本件宅地に移築しようと計画し、その工事を大工菅太一に請負わせた。

(二)  菅太一は、昭和二九年一月一八日頃から右の基礎工事に着手すると共に、右建物を取り壊し、その材料を順次本件宅地上に運び、同年四月一四日頃建前をして同年八月頃一応建物として完成した。

(三)  西原均(本件宅地について順位一番の抵当権者)は、前記抵当権設定に際し、塩崎信夫が本件宅地上に建物を建築している事実を充分承知し、建物が完成しても金一五万円であれば完全な弁済を受けられるという土地評価のもとに抵当権を設定した。

(四)  塩崎信夫は、昭和二九年一一月一六日本件健物について保存登記をしたうえ、前記認定の順位一番及び二番の各抵当権を設定した。

(五)  本件建物は、本件宅地について順位三番本件建物について順位二番の抵当権者岡田伝太郎の申立による抵当権実行により被控訴人がこれを競落してその所有権を取得し、昭和三四年八月一日その登記を了し、本件宅地は、右抵当権実行により遠藤節子が前記一認定のとおりこれを競落してその所有権を取得した。

(六)  本件宅地についての抵当権実行の結果、その順位一、二番の抵当権者はいずれも完全な優先弁済を受け、さらに順位三番の抵当権者も一部弁済を受けた。

右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、民法第三八八条により法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時において地上に建物の存在することを要するもので、抵当権設定後宅地の上に建物を建築した場合は特段の事情のないかぎり同条の適用がないと解するのが相当である。そこで、本件について考察するに、右認定の事実によれば、本件宅地に対して順位一番の抵当権設定当時塩崎信夫はその宅地上に建物の建築に着手していたこと、右抵当権者西原均は右建築の事実を知つてこれを承認したうえ、その建物の存在を前提として本件宅地を評価し、これに基いて抵当権を設定したことが明らかである。このような場合には右抵当権者西原均に不測の損害を蒙らしめる虞れはないのであるから、かかる特段の事情ある場合はたとえ建物の完成が右抵当権設定後であつても、法定地上権の成立を認めて妨げないと解すべきである。従つて、被控訴人は本件建物の競落による所有権取得によりその宅地に法定地上権を取得したというべきである。

そこで、法定地上権の及ぶ宅地の範囲について検討する。前記乙第二号証及び第五号証、原審及び当審における検証の結果を綜合すると、本件宅地の面積は九五坪五合五勺で、その周囲は別紙図面のとおりブロツク塀、竹垣及び生垣等で囲まれ、本件建物は住宅の建坪三五坪五合、物置の建坪一坪五合であつて、その余の宅地は別紙図面に示すような庭及び庭園を形成しており、この庭園は塩崎信夫が本件建物に住宅としての景観を添えるため作つたものであることが認められるから、本件宅地はすべて本件建物利用のため必要な範囲に属していると考えられるので、法定地上権の及ぶ範囲は本件宅地全部であると見るべきである。そして本件庭木庭石は、本件宅地の一部であること前記認定のとおりであり、これを右地上権から除外しなければならない特段の事情は認められないから、これも本件建物の使用に必要な範囲に属し、当然右地上権が及ぶと見るのが相当である。

次に本件庭木庭石全部のうち、別紙図面記載の(イ)から(ヲ)の庭木及び手水鉢の台石、沓脱石各一個の庭石は、前記被控訴人本人の供述及び前記検証の各結果によると、被控訴人が本件建物の所有権を取得した後植付け配石したものであることが認められるから、これは被控訴人が右地上権に基づいて植付け配石したもので被控訴人の所有に属するということができる。

控訴人が本件庭木庭石の所有権取得について公示方法を施しているかどうかについて検討するに、控訴人の全立証及び本件の全証拠をもつてしても控訴人が右所有権取得を明認させるに足る公示方法を施していることを認めるに足る証拠はない。控訴人は、本件庭木庭石を譲受けた際譲渡人である遠藤節子が昭和三六年一月二七日被控訴人に対してその譲渡通知をしたから公示方法を充している旨主張するが、本件の如く宅地に定着した庭木庭石を宅地と区別して譲渡した場合にその譲受人はその所有権取得について公示方法を施さなければこれをもつて第三者に対抗できないところであるが、その公示方法とは一般不特定の第三者をして譲受人の所有権取得を明認するに足るベき行為をいうのであるから、単に特定の第三者に所有権取得の通知をしただけでは右の公示方法にあたらないことが明らかである。

前記認定のとおり、被控訴人は、本件庭木庭石全部のうち、その一部を決定地上権に基づき占有し、その余を所有権に基づき占有している。従つて、対抗要件を具えていない控訴人は被控訴人にその権利を主張し得ない。

五、(結論)

以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡田建治 上野智 山口茂一)

別紙<省略>

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